連載

異見交論 第7回

一橋大学教授 太田浩氏
検証・留学生30万人計画

大学とは何か。どんな価値を持つのか、進むべき道はどこにあるか。
大学人や政治家、官僚、財界人らに大学への本音を聞く。

文・松本 美奈 ジャーナリスト、一般社団法人Qラボ代表理事

外国人留学生の国内受け入れ数が約30万人に達した。「2020年までに30万人に」という国の計画は、数字だけ見れば達成したといえる。だが、留学生を呼び込むことで狙った「日本の大学の国際競争力」は果たして向上したのか。そして、その中核と目される国立大学はどう変わったのか? 留学生教育学会副会長でもある太田浩・一橋大学教授に聞いた。

被害者なしの“三方よし”

――「留学生30万人計画」が発表された2008年、外国人留学生数は約12万人だった。留学生数の増加をどう評価しているか。
太田 「30万人」のうちの10万人は、実は日本語学校在籍者だ。世界的に見て、語学学校や専修学校まで留学生にカウントしているのは、日本ぐらいだろう。

※留学生30万人計画
2020年をめどに留学生の受け入れ30万人を目指す政策。「グローバル戦略」の一環として2008年に始まった。国は入国手続きの簡素化や在留期間の見直しを図り、大学は魅力的なプログラムを作ることなどが盛り込まれている。卒業後に日本社会に定着し活躍できるよう、産学官が連携した就職支援を図ることなども明記している。

――「留学生」の世界共通の定義があるのか。
太田 世界共通の定義を定めたものはないが、このグラフ1でいえば学部8万7806人と大学院5万184人の計13万7990人、一般的にはこれが留学生だ。専修学校や準備教育、日本語教育機関は入らない。文科省は専修学校まで高等教育に入れているが、世界的に見ればdegree(学位)が出る教育機関をHigher educationという。

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――日本語教育機関、いわゆる日本語学校を卒業しても大学に進めない留学生が少なくないと聞いている。
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太田浩(おおた・ひろし)
1964年福岡県生まれ。比較・国際教育学博士。
太田 日本語学校は700から800あるが、教育の質はまちまちだ。欧米では大学のエクステンションセンターとして語学学校が機能している。日本では大半の日本語学校が付属学校ではなく、独立した経営体。不法就労の温床になっている学校もある。海外でも日本語学校の現状が問題になるほどだ。もちろん日本語学校の全てが悪いわけではない。きちんとした教育や進路指導を提供している日本語学校もある。
学生層も変わった。中国や韓国、台湾など漢字圏の学生が減り、ベトナムやスリランカ、ネパール、ブータンなどが増えている。日本語習得が難しいし、経済的な困難を抱えているケースも多い。
一方で、企業は人手不足で、外国人留学生の格好のアルバイト先になっている。タコ部屋のような宿舎で暮らし、昼間は日本語学校で寝ているだけ、時間になったら現場にバスで運ばれ、働く生活だ。日本語学校と専門学校が同じ経営者のところもあり、ビジネス科とか秘書科といいつつ日本語を教えるだけの専門学校に通う学生もいる。大学に行ける人は少ない。
でもそれで文句を言う人は誰もいない。日本語学校はもうかる。企業は人手不足を解消できる。学生たちもお金をもうけることができる。三方よしだからだ。
――なるほど。日本語学校の質、留学生層の変化、企業の人手不足などがあいまって大学に進学できない留学生を生んでいるということか。進学できないだけでなく、不法残留問題にもなっている。たとえば東京福祉大学は、日本語力が不十分な留学生を受け入れたものの、約1600人が所在不明となったと報じられていた。
太田 「30万人計画に協力している」と言っているそうだ。ある意味、当たっている。日本語力がない学生を大学は受け入れているんだ、ということだろう。やり方は間違っているが、その論法は、そうだよねと頷ける点もあるように思う。外国人留学生の受け入れについて、国に一貫した戦略が見えないのが問題だ。30万人計画をぶち上げ、留学生確保に向けてアクセルを踏ませながら、同時に定員の厳格化でブレーキも踏ませている。
――「定員の厳格化」については後で伺いたい。30万人計画は、貧しい学びの場を拡大してしまったということか。
太田 僕はそう見ている。だが文科省はきっと、英語だけで学位を取れるプログラムを国内の大学にたくさん作ったと自慢するだろう。確かに、日本語ができなくても学位を取れるルートはつくった。でも、日本はシンガポールや香港とは違う。日本語ができなければ、日本で働けない。
――その通りだ。日本の企業で働きたかったら、日本人と同じように話せる力が求められる。
太田 だから、英語プログラムで学位をとった人たちは、日本ではなく海外の企業や大学院に行ってしまう。日本には残らない。理想的には、APU(立命館アジア太平洋大学)のように、入学時には日本語力を問わず、四年間で英語も日本語もできるようにして、日本社会での活躍を可能にする教育体系を持つ大学だ。しかし他にはなく、今後もそうしたモデルは増えないだろう。
――なぜそう考えるのか。
太田 同じ授業を英語と日本語でやるために、金がかかるからだ。APUは年間予算の三分の一を留学生の奨学金に使っている。大勢の留学生を入れないと、経営的に難しい。となると、教育の質の担保が大変だ。結果的に、あのモデルを維持するにはマスプロにならざるを得ない。
イギリスやアメリカでも、大教室での講義はあるが、必ずチュータリングをセットにしている。1人の先生が5、6人の学生を指導するシステムが確立している。
――外国人留学生の奨学金も大きな課題だ。
太田 僕はニューヨーク州立大学バッファロー校に留学していたが、学費を払ったのは1年間だけ。2年目から授業料は完全免除だった。アドミッションオフィスで毎日4時間、週5日間の計20時間働き、毎月900ドルもらっていた。ボーナスも年に2回で400ドルもらった。日本人のお客さんが来れば、通訳もした。アメリカ人は「お金をあげるよ、だけど働けよ」という考え方だ(笑)。
――海外の大学で驚くのは、留学生も含め、学生がキャンパスの至る所で働いていることだ。
太田 日本ではせいぜい図書館で本の整理をするぐらい。アメリカでは、大学院生が授業もする。返済不要の奨学金を出すより、大学の人たちと一緒に働かせればいい。そうすれば、文化の違いを学べる。
たとえば僕は、大学で働く中で人を褒めることを学んだ。日本人の上司は基本的に褒めないが、アメリカでは「Oh Hiroshi, goodjob!」。毎日そう言われた。最初の頃は、ボスは僕の出来があまりに悪いから、やたら褒めるのかなあと勘繰っていた。それで聞いたんだ。僕は東洋大学ですでに10年働いてから留学したから、実務はわかる。少しは仕事ができるつもりでいたんだ。それにもかかわらず、と。するとボスは「いや、ダメな時はダメと言う。できたらWell done. Good jobと言うものだ」と答えた。奥さんに「I love you.」と言うのと同じ感覚だって。褒める、褒められるってとても大事だ。教室で学べないことがわかる。それはきっと、日本で就職した時にも役に立つ。

逃げる日本人学生

――一橋大の外国人留学生数は、この10年で7倍以上に増えた。何を策したのか。
太田 端的に言えば、ゲリラ戦だ。世界の主だった大学がブースを出す国際カンファレンスに出向き、宣伝する。海外の大学を回って、プログラムの紹介をする。そこで「どこそこの大学が日本の大学に興味持っているらしい」と聞いたら押しかける。英語で学べる授業や日本語や日本文化の授業がどのぐらい用意されているかを、地道に回って説明した。留学生だけでなく、英語プログラムも今では120ぐらい用意している。当初は30程度しかなかった。
――グラフ2を見ると、2011年に減っている。
太田 この時期、海外で日本語研究をする大学が激減した。入口が減ったのだ。
――「世界大学ランキング」はどう作用するのか。

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太田 一橋の場合には、何の影響もない。全く無名だから。そもそも「Hitotsubashi」と書いても、まず読めない。フランス人は「H」を発音できないから「Itotsubashi」。地名が大学名に入っていないから、どこにあるかもわからない。昔の「東京商科大学」の方が伝えやすかった。「Tokyo University of Business」ならば東京にあることも、ビジネス学校であることもわかる。先日はインドの大学関係者に「エンジニアのプログラムはないか」と尋ねられた(笑)。
留学生が学生数の12%を占めている。国立ではトップクラスだろう。カリフォルニア州立大学などの一流大学から何十人も来ている。一橋はstudy hardで地域の人たちのサポートもあると、海外の大学に評価されている。
――留学生からの評価はどうか。
太田 留学生の評価はとても高い。まず選択できる科目数が多い。日本語も「バリア」ではなく、「キラーコンテンツ」だとわかった。英語の授業をいくら増やしても満足度は上がらない。アニメやゲーム、秋葉原のメイドカフェも含めて、日本文化はキラーコンテンツなのだ。
留学生たちは言う。「世界中の優秀な人たちと会えてよかった。日本人以外」と。世界から優秀な学生が集まって切磋琢磨はできるが、日本人学生とは出会えない、と言われるのだ。
――日本人学生を排除しているわけではないだろう?
太田 日本人学生が途中でどんどん履修を辞退していくんだ。英語ができないから。教室内に英語が飛び交うから、2、3回ぐらいで日本人学生は姿を消す。「レベルが高すぎてついていけない」と。
このプログラムを始めた10年前はまだよかった。大勢の日本人学生が外国人留学生と切磋琢磨していた。だが年々、日本人学生の履修が減っている。なぜだと思う?
――英語教育の影響だろうか。知らない人と話せない傾向が強くなっているのだろうか。
太田 就職だ。2008年はリーマンショックの後で就職が厳しかったから、いくらでも学生を脅せた。「英語できないと就職できないぞ」「日本企業がつぶれるから、就職先は外資系しかない。上司も同僚も外国人だ」と(笑)。そうなると学生は、懸命に外国人留学生と一緒に勉強し、海外留学にも出ていった。
――ところが、今は就職がいい。
太田 だから海外旅行に行く学生も減った。英語もまじめにやらない。英語が全然できなくても企業は一橋大学の看板で採用してくれる。学生は「ポケトークがあるから、英語ができなくても大丈夫」なんて平気で言う。そんなことがあるわけないじゃないか。
――30万人計画の「日本の将来を担う若者」たちは「国際競争に勝ち抜く」どころではないということか。違う方向に行っているようだ。
太田 本当に心配だ。運動部で四年間頑張っていた学生は採用されるだろう。運動部の先輩が引っ張ってくれるし。英語を頑張った、どこそこへ留学していたというのは、何の役にも立たないかもしれない。それが日本企業の採用の現実だ。
僕は本当に悩んでいる。先学期も2つの英語のクラスを担当したが、4、5人しかいない日本人学生が全員、2、3回で来なくなった。
――双方向型授業だろうが、そのスタイルが合わないのだろうか。
太田 そうだ。外国人留学生を相手に講義型授業はできない。発表や議論をどんどんさせないと、アメリカ人留学生なんて、露骨にこう(椅子の上にそっくりがえって両腕を広げ、大仰にため息をついて)、「Boring」。お金と時間をかけて日本に来ているわけだから、その価値がなかったら不満を言って当然だ。その期待に応えるためにこちらが懸命にキャッチボールをする一方で、日本人学生が「お願い一方通行の授業にして」と手を合わせる。そして「私にボールを投げないで」と、僕と目を合わせないように下を向く。
――高校教育、入試の問題もあるだろう。
太田 高大接続改革で英語の「四技能試験」をやめたが、僕は複雑な気持ちだ。入試という観点で四技能は難しかったかもしれないが、英語で意見をやり取りするという実用性を考えたらもったいないことをした。
今年の入試の試験監督を1日やった。道を教える場面がリスニングに出ていた。道順を3回もゆっくりと繰り返すなんて、現実にはあり得ない場面だ。英語なんて完璧にできなくてもやりとりで補えばいい。世界を見れば見るほど、日本の学生の先行きは暗いと思う。

国内競争しかできない国立大学

――外国人留学生を受け入れることで、「大学の国際競争力」は向上したか。
太田 国立大学に国際競争は難しい。まず授業料を外国人留学生用に高く設定できない。外国人留学生にも富裕層と貧困層がいるが、授業料減免や奨学金の対象とするという考えばかりが根強い。富裕層からはしっかり取ればいい。
日本人学生についてもいえることだが、授業料は学士、修士、博士課程で分けて考えるべきだ。学部にかかわらず国立大学の授業料は一律。人文系と理系が同じ授業料なんてあり得ない。コストと生涯賃金を考慮した学問分野別の授業料設定が不可欠だ。

大学でよく言われること・聞くこと
・そんな収入を入れる財布がない。
・国立大学がもうかってはいけない。
・収入が増えると、運営費交付金が削られる。
・民業圧迫になるからダメ。

――減免が必要なら、先ほどのように、学内で働いてもらう方法もある。外国人留学生は言語や生活習慣が異なるから、日本人学生とは異なる支援が必要だ。
太田 だが、その特別なサービスに課金できない。英語で学べる科目、英語によるオリエンテーションなど各種サービスを用意するため、日本の大学は相当なコストと労力をかけている。だが、大学に提案したら「そんな収入を入れる財布がない。国立大学はもうかってはいけない」と返された。こんなことはしょっちゅうだ。
――国立大学は「運営から経営へ」モデルチェンジを求められているのに? 海外の大学ではそういったサービスは有料か。
太田 たとえば米国の大学では、Technologyfee、 Student service feeなどを徴収するところが多い。金額はさまざまだ。
国立大学は「民業圧迫」もダメだ。キャンパス内の道路に面している所に宿舎を建てて、低層階はコンビニと高齢者施設、高層階は学生宿舎としたらどうかと提案したことがある。低層階の収益で宿舎を安くできて留学生も助かるだろうと。ところが、「国立大学法人の特権を生かした民業圧迫になるからダメ」。確かに賃貸アパートの空室は多いが、そもそも大家が外国人留学生には貸したがらない。
――先ほど指摘していた「定員」についてはどうか。日本の大学は厳格に入学定員が定められている。
太田 定員管理は諸悪の根源だ。海外では、国公立大学であっても定員を決めるのは大学だ。さらに多くの国々では留学生はその定員外で、授業料も別建てだ。日本の大学の2年、3年次に編入を希望する外国人留学生が多いが、受け入れるためには、1年次からその分を空けておかなければならない。そんなことはできない。
何のために定員管理をしているのだろうか。「質保証」ならば、入口よりも出口管理の方が有意義だ。入試のハードルはそれほど高くなくても、教育を厳しくし、悪ければ落第させる。それでもダメなら卒業させなければいい。
――海外の大学ではそれが主流だと聞いている。そうすると、国立大学が国際競争に出るには、まだまだステップが必要ということか。
太田 国立大学法人化は、国内競争用の仕組みだ。文科省の下で、86大学を競わせるための仕組みだった。海外の大学とやりとりすると、そのことを痛感する。そんな制度的問題だけでなく、現場のマインドセットの問題も大きい。面倒くさい、やりたくない、事なかれ主義、前例主義がはびこり、失敗と間違いをしないことが大事とされている。そう、教員も、職員もだ。職員は大きく3分類できる。ずっとその大学にいる人、国立大学間を転々と異動する通称「グルグルさん」、それから文科省から出向してくる職員だ。個々の国立大学が法人化しているのに、なぜ国立大学間で職員がグルグル異動するのか。なぜ主要ポストに文科省出向組がつくのか。意味がわからない。いずれにせよ、大学に愛着がないから、よくするための改革が進むわけがない。

「日本人化した外国人」を求める企業

――外国人留学生の卒業後について聞きたい。
太田 日本はメンバーシップ型終身雇用だから、留学生の就職は厳しい。そもそもジョブディスクリプションもなく、契約もない。
たとえば北京大学からきた優秀な留学生がこんな話をしていた。日本語も英語も完璧で、大手食品メーカに採用された。内定のための集まりに出て、驚いていた。同期の内定者がみんな「これから長いおつきあいになりますが、よろしくお願いします」と言ったのだそうだ。自分は定年までいるつもりはないから、やはり辞退すべきだろうか、と悩んでいた。
――優秀であれば、雇用形態が邪魔をする。日本語ができなければ、そもそも採用されない。いずれにしても、外国人留学生にとって日本での就職はハードルが高いようだ。
太田 最近は「日本人度」の要求がどんどん高くなっている。特に東京では。日本語だけでなく、ふるまいまで日本人であることを求められる。つまり「日本人化した外国人」。ダイバーシティではなくて、「日本化」。植民地政策が延々と続いているようだ。
――留学生政策の基本方針にもそうした真意が隠れているのかもしれない。日本人学生については「世界での活躍」を狙い、外国人留学生には「架け橋」「我が国の安全保障につながる」ことを期待している。

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太田 外国人留学生は、単なる「人材」だ。一人一人の人間ではなく、塊かもしれない。外からいろんな人を入れて日本を変えていかなくてはいけない時期に、日本化した人を入れて、労働人口だけ維持しようとする。それは無理な話だ。
「塊」だから、安い労働力としても使われる。外国人はもうかる、日本人も助かる。日本語学校ももうかる、誰も文句を言わない。
だが、この現状が世界に伝わっていったら、日本は世界にどう評価されるのだろうか。いずれ、日本はとんでもない国だと言われるのではないか。
――そもそも外国人留学生が留学先を決める際には、「どこの国にしようか」と国選びから入るとか。
太田 7、8割は国選びからだ。よほど優秀な人でない限り、ハーバード大に行きたい、とかオックスフォード大に行きたいとはならない。そして最後は単純な理由で決める。僕も相当イギリスとで迷ったんだが、やはりハリウッドムービーの世界、いいなあ、でアメリカを選んだ(笑)。
で、アメリカで言われた。「ヒロシ、アメリカの最大の輸出品を知っているか? 夢だよ」。自分の国から外に出す「プッシュファクター」と、自分の国が引っ張り込む「プルファクター」がここで作用する。アルトバックが1980年代初めに作った概念だ。多くの外国人留学生にとって大学はあくまで手段で、目的は仕事だ。今、日本の売り、プルファクターは「就職できる」だ。先程のアメリカンドリームも「プルファクター」。ファクターの中身は変化する。治安もプルファクターだ。
――政府も大学も「優秀な留学生」を求めている。
太田 まず語学学校と大学をつなぐことが重要だ。海外のように一流大学が語学学校を持っていると宣伝にもなる。日本では、「天下の東大が『あいうえお』を教えるのか」と批判が起きるだろう。もったいない話だ。
一橋では、全くの初級に単位を出せるようになった。当時の副学長に先見の明があった。一定の門を越えた人だけ受け入れますというのでは、「優秀な人」を見つけられない。人は化けるのだから。
――いずれにせよ、留学生政策も現場の対応も早急に見直さないと、日本の評判にかかわる。
太田 化けの皮が剥がれるのではないか。レガシーで食っていける時代は終わりだ。一橋も今後はわからない。僕が来た15年ぐらい前は博士課程がなく、海外で博士をとった先生方ばかりだった。みんな世界の厳しさを知っていた。今はメイドインジャパンばかり。一橋で今、問題になっているのは、ビジネススクールの世界的認証「AACSB」だ。ハーバードなどの一流大学が名前を連ねている。この認証がないと「MBA」と名乗れない。日本では慶應と名古屋商科大学、APU、国際大学の4つぐらい。数年前に「認証を急いで取るべきだ」と教授会で発言したら、笑われた。ところが今はどうしたら取れるか、四苦八苦している。韓国はすでに十数校が取っている。認証に合わない低レベル教員はすぐに首を切るからだ。AACSBの求める基準は、日本の大学設置基準よりはるかに高い。だが設置基準以上のことをしたら、今度は運営費交付金が国から出なくなる。
――世界標準を目指そうとすると、日本の規制が足かせになるということか。
太田 かつては世界基準を考えなくてもよかった。日本スタンダードとレガシーで食っていけた。時代は変わった。AACSBに入っていないと、大学間協定もできない。交換留学の交渉の際に何度も言われた。「一橋だけだ、AACSBを取れていないのは。おたくはいい教育と聞いているから、例外扱いだ」と。もうガラパゴス化している。
世界ランキングにこだわる必要は全くない。世界基準の認証を受けたり、プログラムを世界標準にしたりと、質保証のシステムはほかにもある。時間がかかるけれど、地道な努力が大事なんだ。

 

 

ひとこと

今年2月、東京都内で開かれた社会保険労務士研修会でのこと。300人を超す出席者を前に、招かれた講師がその日のテーマ「外国人労働者」に沿って、様々な法律や制度の改正を説明していた。

力説したのが、「安い労働力」として扱わない姿勢がひいては会社のために重要だということ。就労条件や環境の適切な整備は、日本人労働者にとっても有意義だからというのだ。

話が終わるやいなや、参加者から質問が飛んだ。「では、安い労働力をどこで探せばいいのですか」。他の出席者も真剣な表情で講師の顔を見つめていた。

外国人労働者も留学生も、人口減少社会・日本の「埋め草」に過ぎないのか。念仏のように唱えられる「国際競争力」の行方が、とても気になる。(奈)

画像まつもと・みな
ジャーナリスト、一般社団法人Qラボ代表理事。上智大学特任教授、帝京大学客員教授、実践女子大学学長特別顧問。元読売新聞記者。著書に『異見交論崖っぷちの大学を語る』(事業構想大学院大学出版部)、『特別の教科 道徳Q&A』(共著、ミネルヴァ書房)など。

この記事は「文部科学 教育通信 No.483 2020年5月11日号」に掲載しております。

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