連載

授業ノートから 第2回

デジタルネイティブの素顔

上智大学特任教授
帝京大学客員教授
松本 美奈

 

 先生はてんやわんや

コロナ禍で、例年になくひっそり閑のGWだった。たくさんの飛行機が待機所で出番を待ちわび、間引き運転の新幹線さえ空っぽで走っている。むろん、それを知ったのはテレビや新聞のニュースでだが。

リアルな世界のそんな静けさとは裏腹に、仮想空間では先生たちが右往左往していた。ウェブ上のセミナーを「ウェビナー」というらしい。テレビ会議システムを使った遠隔授業を迫られた多くの先生が、授業をうまく進めるための処方箋をウェビナーで得ようと血眼になっていたのだ。朝八時からの早朝ウェビナーすら「満席」が目立った。

「Zoomをどうやって始めたらいい?」「パソコンを新調したいのに、店が閉まっている」「自宅にWi-Fi環境が整っていない。工事業者も呼べない」……。セミナーで聞く先生たちの悲鳴は、これまで考えたこともない機材の水準、環境やソフトの操作方法に集中していた。

前述のZoomとは、数あるテレビ会議システムの一つだ。同種のシステムムの中でも比較的容量が軽く、参加者にそれほど負担にならないのが強み。セキュリティー面の問題が指摘されつつ、コロナ禍を機に導入に踏み切った大学が多い。スマートフォンやタブレットでも「参加」はできる。けれども、授業の「ホスト役」の先生としてはパソコンが欲しい。だが、それが手元になかったり、入手したくても店が開いていなかったり。さて困った、というわけだ。

不安も不満も、言い出したらきりがない。大切なのは、現状を受け入れて「授業をどう変えるか」ではないか。いつまでも従来の授業スタイルにこだわっている場合ではないだろう。パソコン画面上の喧騒を眺めてそう思っていると、ふと自問に胸を衝かれた。では、私は変えようとしているか。どこかで自分のスタイル、「顔と顔を合わせて対話を深める授業」に固執していないだろうか、と。

そこで授業の流れを洗い直し、表にまとめて再確認した。結論は「まずい」だった。このままZoomで授業すれば、容量オーバーで学生のネット環境を破壊しかねないのだ。少しでも短くしなければ。それには、みんなで集まってしなくてはならないことと、個人でもできることを峻別しなくてはいけない。課題が次々に浮かんできた。

学生からは、「この授業は時間が短すぎる」「すぐ時間が過ぎる」と評価されてきた。「それだけ充実している」という気持ちを込めての言葉だろうが、設計自体の甘さもあったと反省し、見直しに入った。

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まず「導入」と「ピアレビュー」。計20分かけていたこの部分を、これまでの流れの外に出したらどうか。例えば、学内用学習サイトの「掲示板」に貼り出せば、学生同士が互いの課題を見られるし、コメントも出し合える。「課題図書の感想」も「100字書評」に変えよう。ただ、「リフレクションシート」は、私に対する手紙(苦情もある)のようなものだから、扱いは別にして。せっかくなら、所属大学が違う学生同士が互いの課題を見られた方が面白そうだ。今期は、従来の帝京、上智に聖路加国際大学の看護学生も加わる。多様性のある学びの場は、学生の成長にきっと役立つ。できれば、学外者にも学内サイトを使わせてもらえないだろうか。

そのことを冲永佳史・帝京大学理事長にお願いすると、即座に快諾してもらえた。大学関係者ならお分かりだろう。学外者の学内サイト利用は、かなり珍しい。現場スタッフの迅速な対応もあって、あっという間に話は進んだ。

 学生は「さびしい」

そんな風に学内サイトとZoomを組み合わせた新しい「Class Q」を、肝心の学生はどう受け止めるだろうか。新学期を前に、「KKT20(教材開発チーム2020)」の学生たちと、新しい授業の実験を試みた。今の学生は、デジタルネイティブ。生まれたときには携帯電話(ガラケー)があり、中学校に上がる頃にはスマホを手にしていた子も多いだろう。この手の授業も難なくこなせるし、楽しめるのではないかと期待していた。

結果的に掲示板の活用は当たり。帝京と上智、双方の学生が、帝京大のサイト上での課題の「ピアレビュー」に夢中になった。学期前で成績とは無関係にもかかわらず、毎日、社説を書き写して掲示板にアップする学生も出てきた。書き写すだけでなく、関連のニュースを調べたり、過去の社説との論調の変化を書き出したりする学生もいる。「みんなが見てコメントしてくれるから、張り合いがある」という。

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社説の視写は、実は全く人気のない課題だ。書き写すことが思考を深め、批判的思考力を養うと効用を伝えてきたが、大半の学生は嫌がる。書き写すだけで40分。疲れるし、そもそも内容もわかりづらい。単調な作業だから眠くなり、間違える。ますますやる気がなくなる。そんな繰り返しが目立った。リアルな教室で困難だったことを仮想空間が実現してくれたのだ。これには驚いた。

リアルな教室でのピアレビューは、時間の制約が大きい。課題に意欲的に取り組む学生にとっても、そうでない学生にとっても、単なる「流れ作業」となっていたのかもしれない。

課題へのコメントの仕方でも、学生は新しい気づきを得ていた。ツイッターなどの「言いっぱなし」とは異なる。匿名でもない。「言葉を丁寧に選んで伝えないといけない」と掲示板に書く学生もいた。ふだん多用している略語やスタンプなしで伝えることの難しさを、実感したようだ。
一方のライブ型授業、つまりZoomを使った授業に対しては、意外な感想が寄せられた。

「さびしい」「先生とも目が合わない」。

私の目には現に学生の姿は映り、表情も見えている。だが、学生にとっては「目が合わない」という認識なのだ。隣にいる学生と「おしゃべり」ができないともこぼす。余談だが、学生同士の「おしゃべり」は侮れない。何かに端を発した「気づき」だったりするからだ。だから、ふだんの教室では、学生のおしゃべりに聞き耳を立てて話題に滑り込み、時にはその内容をクラス全体で共有することもある。

画面の中で、言葉は飛び交ってはいる。だがそれは肉声ではなく、表情もつかみにくい。画面以外の状況は全くわからない。真剣なのは顔だけかも。画面でも、下を向いて話されたら、誰が話しているのか戸惑う場合もままある。対面でのやり取りに比べ、情報はかなり限定される。

「ステイホーム」で友だちに会えない。画面では、仲間と「おしゃべり」もできない。先生とも目が合わない。確かに、さびしかろう。

手書きに対する「デジタル」でのコメントにも、それは表れる。「先生の赤ペンが見れなくて」。デジタルネイティブは、さびしがり屋で、意外にも手書きが好きだったりするのだ。

だから、リフレクションシートはメールで送ってもらい、手書きのコメントをたっぷり盛り込んで返信することにした。

 

この記事は「文部科学 教育通信 No.486 2020年6月22日号」に掲載しております。

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