連載

異見交論 第5回

芝浦工業大学 村上雅人学長
工学部の女子比率が日本を変える

大学とは何か。どんな価値を持つのか。進むべき道はどこにあるか。
大学人や政治家、官僚、財界人らに大学への本音を聞く。

文・松本 美奈 ジャーナリスト、一般社団法人Qラボ代表理事

女子学生の比率を3割まで上げようと、芝浦工業大学が努力している。「日本の工学部の常識を変えるのは、女性の視点だ」と意気込むのは、村上雅人学長。学生だけでなく、教員も3割、職員では5割にまで女性比率を上げたいという。では比率を上げると、工学部はどう変わるのか。その変化がキャンパスでどんな花を咲かせるのか。

女性教員が増えたら、教授会の時間が短くなった

――芝浦工業大学に限らず、工学部は女子学生が少ない。何を狙っているのか。
村上 ダイバーシティ(多様性)を推進する先進大学だ。教育と研究をする大学にとっては、国籍、人種、肌の色、宗教、文化、習慣、性別、年齢、思考方法など、多様性が重要だ。創立100周年の2027年に向け、数値目標を掲げている。
――多様性が担保されると、工学部に何が起こるのか。
村上 イノベーションだ。多様な背景を持つ人々が集まれば、いいアイデアが生まれる。人は自分と異なった見方をする人たちからたくさんのことを学べる。互いを尊重する精神も育ち、チームワークの醸成にもつながる。
だが多様性があるだけではダメで、インクルージョン(受け入れること)も大事だと常々話している。ダイバーシティ&インクルージョンだ。
ダイバーシティとあえて言うのは、いきなり「男女共同参画」というと、学内で抵抗があるからだ。
――男女共同参画には抵抗があるのか。男性ばかりの大学だと気を使わなくていいから、居心地がいいのだろうか。
村上 この大学に来て最初に嫌だなと感じたのは、教授会だった。男しかいないから、発言が全く建設的ではない。自分の言いたいことだけ主張して、時間ばかりがかかっていた。
ところが、一連の取り組みで女性教員が増えたら、変化が見えた。教授会の時間が短くなった。無駄なことを言わなくなった。

男性は「無関心」、女性は「あきらめ」

――女性教員がいないから、発言が建設的ではないという話は初めて聞いた。教授会はつまらない話ばかりしているとはよく聞くが。それにしても、なぜ「男女共同参画」を前に出すと抵抗があるのだろうか。
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村上雅人(むらかみ・まさと)
1955年、岩手県盛岡市生まれ。工学博士。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。新日鉄研究員時代に、疲労耐久性の高いFe-Mn-Si系形状記憶合金を発明。芝浦工大教授を経て2012年から現職。
村上 今でこそ抵抗は目立たなくなったが、一昔前は違った。2008年にアンケートを取ったら、男性教職員は全く「無関心」だった。男女共同参画推進活動そのものを知らない。「男女共同参画? 何それ」という感じだった。女性教員の採用促進、ポジティブアクション注1に対しては、全員反対を表明した。「それは平等に反する」と厳しい声が挙がった。
一方で、女性教員に広がっていたのは「あきらめ」。芝浦工業大学に限らず工学系大学は「男社会」なので、男女共同参画推進は無理と感じていたようだ。女性もポジティブアクションには否定的だった。下駄を履かせるなんてことはしなくていいと。だが、将来に対する不安は大きいと答えていた。女性職員は、管理職への興味がないとも回答していた。
学生は、男女共同参画推進活動をほとんど知らなかった。当時、博士課程進学を控えた女子院生がしてくれた話を今でも覚えている。研究者として生きていけるのか、不安を口にしたら、大学教員になっている女性の先輩から「まず結婚はあきらめなさい」と言われたそうだ。それでなくても男社会だから、一般的な人生の喜びは捨てなければいけないのだと。
――なぜ2008年にアンケートを取ったのか。
村上 私が副学長に就任した時だ。工学系大学で男女共同参画推進は最重要課題だと感じていたから、当時の柘植(綾夫)学長に教学重点課題として位置付けようと提案した。そこから男女共同参画がスタートした。2012年、学長に就任した時、男女共同参画推進を宣言し、推進室もつくった。その後、文部科学省の女性研究者研究活動支援事業に採択されたことが弾みになった。
――2008年がスタート? 男女雇用機会均等法の制定は1985年、それから23年もたっている。
村上 (笑)それが工業系大学の現実だ。打破するには、まず情報共有、それに意識啓発と認識した。そこで2012年に全学シンポジウムを実施した。学長としての意思表示をしたのはもちろんだが、全学部・学科長にも所信表明をしてもらった。当然、皆かっこいいことを言う。なら実行しろよ、という感じでその場をつくったのだ。まとめとして、芝浦工大は男女共同参画を積極的に進めるべきだという意見になった。
一方で、学生も交えて男女共同参画をテーマにしたワークショップを推進した。卒業生アンケートも行った。卒業生は男性が圧倒的多数だが、意外にも「女子学生が少ない」「女性教員が少なすぎる」というコメントをほぼ全員が書いてきた。おかげで「だから変わらなくてはいけないんだ」と学内を説得できた。
全学的なワークショップでも、女性教員を増やす大切さを伝え続けた。その場には副学長や学部長、それに女性教員の少ない学科の主任にも必ず出てもらった。
――学外を巻き込んだ行動もしたのか。
村上 先ほど話した女性研究者研究活動支援事業では、お茶の水女子大学と物質・材料研究機構(物材機構)と共同で申請して2014年に採択された。2017年には支援事業で本学だけが唯一「S評価」。それが学内の雰囲気をがらりと変えた。
他の大学や機関を巻き込み、一緒に進めることは互いの啓蒙につながるだけでなく、勇気にもつながった。お茶大に入ってもらったのは、女性研究者教員を増やしたかったからだ。採用したくても応募してこないと嘆いているだけでは、本気度が疑われる。戦略的、積極的人事をしようと考えたのだ。女性研究者の卵は世の中にたくさんいる。いい研究者の卵がいたら本学が採用します、と連携を持ちかけたら、お茶大は喜んでくれた。

3割いれば、連携と発言力

――なぜ30%なのか。この数字の達成で大学がどうなると考えているのか。
村上 10人の中に少なくとも30%、三人いれば、連携しやすくなる。1人では孤立する。2人でもまだ力不足だが、3人いれば、力を合わせて困難に立ち向かえる。一定の発言力も生まれる。
――受け入れる組織や態勢も変えなくてはならない。
村上 もちろん。だから、学内組織を整えた。学長直下に推進組織を設け、女性の担当学長補佐を任命した。2012年には目標設定をした。2027年に女性教員比率を30%、女子学生比率を30%、職員については女性比率を50%、管理職比率を30%にするというものだ。女性職員は多いが、残念ながら管理職が少ない。戦略的人事で重要なのは、人事選考結果に対して私が直接、向き合うことだ。女性の応募者がいたのに選考されなかった場合、理由を確認するようにした。
女性のライフイベント、出産の支援も始めた。出産前には、研究支援員を配置した。雑用や研究を補助する大学院生を置いたのだ。産休育休の時には、代替の特任教授を採用した。1年間契約。退職されたOBの先生に来てもらったりしている。この制度は、産休育休中の女性教員だけではなく、介護を抱える男性教員にも適用することにした。結果的に、出産する女性教職員が増えた。
――研究支援員の意識も変えそうだ。
村上 そう、特に男子院生の意識が変わった。女性は大変な苦労を背負わされているのだと。それも見越して、お子さんが生まれたら積極的にキャンパスに連れて来ていただきたい、と先生方に話している。先生が学生を指導している間、おじいちゃん先生がお子さんの世話をするという光景も見られるようになった。
――すてきな光景だ。
村上 そこに身を置くことで、こういう支援が大学、社会に重要だということを学生が体感する。
また別の変化としては、女性コミュニティー、教員同士の研究交流会も生まれた。期待通りだ。女性の先輩がメンターになっての自主的な活動も始まった。他機関と連携することで、女性の先生たちが安心できるようになった。
――ポジティブアクションに反対する意見も多かったはず。学内をどう説得したのか。
村上 工科系大学は3K職場と呼ばれている。きつい・汚い・危険。そういう環境で、卒論になると徹夜で指導もしなくてはならない。女性教員が働けるはずがない。そんな風潮があり、女性研究者を書類選考段階で落としていたのだ。今までやっていたのは「ネガティブアクション」。それをノーマルに変えただけで、ちっともポジティブアクションではない、下駄を履かせているわけではないという認識を持ってほしいと常に話している。

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このグラフを見てほしい。2012年には6.2%、18人しかいなかったが、2019年には18.5%、63人になった。女子学生比率も徐々に変化している。
――学生数と女性教員の伸びには、タイムラグがあるようだ。
村上 女性教員をかなり増やさないと、女子高校生も安心して工業大学に来ないだろう。高校の先生方にも不安が残るだろうし。
数だけではない。女性教員の科研費採択件数も伸びている。男女共同参画推進室で昼休みやいろんな機会をつかまえて、女性の先生方が集まる機会をつくってくれている。男性教職員の意識も相当変わったと思う。偏見がとれて理解が進んだ。学生の意識も大きく変わった。男女の違いを理解した上で尊重し合うことを学んでくれているようだ。
嬉しかったのは、女性の教職員に「学長から勇気と希望をもらった」と言われたこと。何事も諦めてはいけないのだとわかったとも。2008年に言い出した頃はだれも本気にしなかったが、ここまで来ると、意識も変わるし、キャンパスの雰囲気も変わる。

就職は女子学生から決まる

――工学部の女子を、企業はどう受け止めているか。
村上 産業界からは強く求められている。就職は、女子学生からどんどん決まっていく。完全に売り手市場だ。特に、電気関係やものをつくる企業が女子学生を入れたがっている。女性の視点が製品に反映されると、売り上げが全然違うというのだ。商品を買うのも、実際に使うのも、圧倒的に女性が多い。ところが家電にしても、男しかいない職場ばかりだった。女性の視点が入ることで全く違う商品ができる。
――こちらには、工学、システム理工、デザイン工学、建築の四学部がある。女子学生の比率にばらつきがある。
村上 そう、建築、デザインは多いが、工学部が少ない。これが課題だ。機械と電気、機電系をいかに増やすか。これは芝浦だけではなく、日本の課題だ。企業はここを求めているのに、学生数では一番少ない。
キャンパスの整備もしている。豊洲キャンパスは、つくる時から女子学生の増加を視野に入れていた。オープンキャンパスで大勢の女子高生がトイレを見て、「ここなら来ても大丈夫だ」と書いてくれた。施設も大切だ。私は入ったことがないが、大宮キャンパスの2号館も女子トイレがきちんと整備されているようだ。
――これまでの取り組みを踏まえて、なぜ女子学生が少ないのかを分析してほしい。大学側の問題なのか、高校側、家庭教育の問題か、卒業後の出口が見えていないのか。

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村上 工業大学の集まりで男女共同参画推進について話しても、なかなか乗ってくれない。まず大学の問題意識から変えなくてはいけない。けれども、これからどんどん変わるだろう。企業が女性を積極的に採用しているから。
企業側のライフイベントに対するサポートもずいぶん変化しているようだ。有名な自動車メーカーに勤めていた本学の女性教員が、「昔は本当にひどかった」と話していた。女性へのケアが全くなかったらしい。そこで、社外取締役として入ってから一人一人を説得して回り、制度と態勢を変えていったと。
女性役員の登用も進んでいるようだ。女性の視点を入れて商品開発をしていかないと、企業が国際競争に絶対に勝てないのは明らかだが、機電系はそもそもの学生数があまりに少ない。
家庭の影響は大きい。女子学生に聞いてみると、お父さんが理系の企業で働いているご家庭の子が多かった。小さい頃から父親の姿を見ているから、違和感がないという。昔の話だが、女の子が機械いじりをしていると、お母さんが「女の子なんだから」と止めると聞いたことがある。
――進路指導の影響はないだろうか。
村上 高校訪問をした教職員によると、物理の先生がいない高校もあったようだ。物理を学んでいない生徒が工学部を選択するのは相当難しい。もともと理工系進学が視野にもなかった高校なのだろう。
外からの入学者だけを待っていても仕方ないので、男子校だった附属高校に女子クラスをつくった。今年、最初の卒業生を出す。共学にしても入学者はいないだろうと言われていたが、芝浦工業大学への進学を目指す20人定員クラスをつくった。女子学生を増やしたかったら、そういうことを自前でしなくてはいけない。それが日本の現状だ。
――「女性は理工系に向かない」ということを証明した研究でもあるのだろうか。
村上 そんなものはないだろうが、確かにノーベル賞受賞者でも女性は少ない。1927年撮影の有名な写真がある。「ソルベー会議」という世界の物理学者が集まった会議で、女性はキュリー夫人だけだった。ああいうのがイメージをつくって、女性を遠ざけているのではないか。
――理工系は学部だけでなく大学院とほぼセットだ。一方で、企業は女性の年齢に対して厳しいとも聞いている。かつては浪人した女子は採らないとささやかれていた。そうしたことも手伝っているのだろうか。
村上 今でこそ女子学生は引く手あまただが。確かに、2003年にある企業から「男子学生がほしい」と言われたことがあった。なぜかと聞いたら、「女性は結婚して辞めてしまう。せっかく苦労して育てているのに」と説明した。驚いた。それは女性側の問題ではなく、あなた方がライフイベントや福利厚生で支えていないからではないか、と反論したかった。「男子学生なら落第しそうな学生でもいい」とも言っていた。

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機電系を選ぶ女子学生が少ないのは、3Kかつ男の仕事だろうというイメージがあると思う。国立大学の工学部というと、油まみれの機械が置いてあり、雑然とした中で作業服を着て作業をしているというイメージが強いだろう。今は全く違う。機械にしてもコンピューターを使って設計している。
いずれにせよ、世の中は女性が半分を占めているのだから、企業がその視点を入れ、働きやすい環境を整えるのは当然だろう。グローバル化が進んでいる。海外の企業は随分前からそこに取り組んでいるから、国際競争という観点からも不可欠だろう。
――海外でも、理工系大学の女性比率は少ないのだろうか。
村上 先日会ったマレーシアの大学長が自慢していた。女性教員が六割を占めているそうだ。聞いて驚いた。ただ、そこは新しい大学で、古い大学はまだまだらしい。そうした世界の状況の中で、芝浦がトップアスリートになりたい。
――先ほどから聞いている女性教員のことだが、これは有期契約なのか、パーマネントの雇用なのか。
村上 うちはパーマネントで増やしている。助教からパーマネントでお願いしている。パーマネントだから安心して働ける。ライフイベントも支援する体制を整えているから、優秀な人が集まる。
多様性大事だよね、とおっしゃる大学関係者は多い。男女共同参画大事だよね、と言いながらも女性教員をあまり増やさない。増えたのはせいぜい助教で、しかも有期契約だ。

女子学生の方が頼もしい

――女性比率を高めることで、学生の質も変わっているのだろうか。
村上 男女共同参画の成果かどうかはわからないが、SGU注2に採択されていることもあって、グローバルに対する意識が1、2年生は大変高い。特に女子学生は際立っている。TOEICの成績も上がっているし、海外留学への意欲も高い。留学への申し込みは、女子学生が圧倒的に多いようだ。本学はSDGsにも取り組んでいて、学生が自主的団体を立ち上げている。つい先日、大宮キャンパスでイベントを開いていた。その団体の七割も女子学生が占めている。
そもそも工業大学に来る女子学生は覚悟を持ってきている。だからとても頼もしい。
――国内外の産学官をつなぐ場としての「GTIコンソーシアム」で、女子学生や教職員増に取り組んでいないのか。
村上 海外の大学や企業にとって、ジェンダー・イクオリティーは「当たり前」だという。わざわざ言及しなくてもいいそうで、日本の参加メンバーがこれに引きずられる形になっている。海外からトップクラスを招くと、大学のプロボストや学部長が女性ということは珍しくない。先日参加してくれたボッシュの代表も女性だった。

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――海外でも昔からできていたわけではないだろうが。
村上 高校生で留学して以来、しょっちゅう海外に行っていた。今でも覚えているのは、30歳くらいの時、米国ウイスコンシン大学で見たことだ。当時、ある女性の研究者を登用しようとしていた。彼女は、採用されるか採用されないかの判断が分かれる厳しい年齢だったが、ウイスコンシン大学は准教授に採用した。その時に男性陣から異論が上がった。「なんであいつ? こちらの男性の方がよほど優秀だ」「こんな変な制度を政府がやるから男が損をする」。
米国でもそういう時期があった。大学は圧倒的な白人の男性社会で、黒人や東洋人もいなかった。ところが徐々に変わり、いまは女性も多く、国際色も豊かになった。それでいろいろなことも起こる。例えば、マサチューセッツ工科大学の学生が海外から来た先生たちの英語がわからないから何とかしてくれ、と苦情を言った。それに対して大学は指針を出した。「WrittenEnglish has no accent」。話し言葉はわからなくても、書けばわかるだろうということで、板書を勧めたのだ。
これがインクルージョンということなのだろう。学問の芯のところは話し言葉よりも論文で伝えて、お互いわかり合う。
――海外でも葛藤を経て現在に至るということか。そうなると、工業大学の改革の先には、日本社会の改革が待っていると期待したい。
村上 日本がようやくそこに来たということだ。
インクルージョンとの関連でいえば、文理融合が課題になっている。私の専門、超電動研究をするうえでも、技術だけ見ていたら世の中に浸透しない。学内で起きているのは、共通教育の文系の先生が情報の先生と男女共同参画を通じて知り合い、共同研究をするといったことだ。これが自然な文理融合だ。観光の研究をしている人もデータ処理が必要になると、情報の先生の助けを借りる。情報の先生も全く未知のデータに出会えるわけで、視野が広がる。
この場合、双方の研究者がしっかりした研究を持っていることが重要だ。きちんとした知識と技術を持った上で文系の人たちと付き合い、視野を広げる。そうしたことは、女性の方が上手ではないだろうか。
――男女共同参画を考えるようになった、そもそものきっかけは何なのか。
村上 高校時代の米国留学だ。世界的視野で物事を見る必要性に気づいた。中でも印象的だったのは、いかに日本では女性研究者が少ないか、だった。世界を見渡すと、すばらしい研究成果を出している女性がたくさんいた。研究する際の多様性の効用、女性ならではの視点が何を生み出してくれるか。実際、私自身が触発された経験もたくさんある。
――新日本製鉄勤務の研究員としての経験もある。それも何かのきっかけになっているだろうか。
村上 岩手県の出身で富士製鉄の釡石製鉄所注3を小さい頃から見ていたし、小学校の担任の先生の弟さんがそこに勤めていたりして、もともと新日鉄とは縁があった。東京大学在学中には、新日鉄と共同研究をしたこともあり、大学にはない優れた分析装置を持っていたのを覚えている。1986年から超電導ブームが起きると、東大は各企業から人材を集めて研究所を作った。中に女性研究者もいて、今では国立大学の理学部長や私立大学の教授、東大の研究所長になっている。その時、女性はすばらしいなあと思った。視点も発想の豊かさも。ディスカッションしてもいつも負けそうだった。
女性比率が高まれば、日本の工学部の教育・研究が変わるのはもちろん、常識も変わる。女性の視点は不可欠なのだ。

 

 

<注>

1 ポジティブアクション 社会的・構造的な差別によって不利益を受けている人に、「機会均等」を実現することを狙った措置。指導的地位につく女性の数値に関する枠などを設ける手法などがある。

2 SGU(スーパーグローバル大学創生支援事業) 国際競争力の向上を目的に、世界レベルの教育研究を行う「トップ型」大学や、国際化を牽引する「グローバル化牽引型」大学に対し、重点支援を行う文科省の事業。トップ型は13大学、グローバル化牽引型は24大学が採択された。芝浦工大はグローバル化牽引型。

3 富士製鉄 1970年、八幡製鉄と合併して新日鉄になる。両社のルーツは、ともに「日本製鉄」。GHQの財閥解体により2社に分離されていた。

 

ひとこと

女性教員が子どもを連れて研究室に来る。その教員が学生を指導する間、おじいちゃん先生が子どもと遊んでいる。大学の意外な側面に、今までとは一味違う社会が実現しそうな、うれしい予感がする。

ただ、企業はそうした大学の変化を受け止められるだろうか。上場企業役員の女性比率を見ると、2019年は5.2%。海外に目を転じると、フランス43%、ドイツ32%、イギリス27%。ヒラリー氏が「ガラスの天井」を指摘した米国ですら22%だった(いずれも2017年)。村上氏の話をもとに推計すれば、30年すれば、この程度にはなるのだろうか。

先日、企業の元人事担当者からこんな話を聞いた。どんなに優秀な女子学生を最終選考に送り込んでも、男性役員たちが男子学生を優先するのだそうだ。産業界はしばしば「大学の変化が遅い」と批判するが、さて問題は。(奈)

画像まつもと・みな
ジャーナリスト、一般社団法人Qラボ代表理事。上智大学特任教授、帝京大学客員教授、実践女子大学学長特別顧問。元読売新聞記者。著書に『異見交論崖っぷちの大学を語る』(事業構想大学院大学出版部)、『特別の教科 道徳Q&A』(共著、ミネルヴァ書房)など。

この記事は「文部科学 教育通信 No.479 2020年3月9日号」に掲載しております。

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